2013年 09月 08日
「比丘たちよ。苦の聖諦はこれである。 いわく、生は苦である。 老は苦である。 病は苦である。 死は苦である。 嘆き、悲しみ、苦しみ、憂え、悩みは苦である。 怨憎するものに会うは苦である。 愛するものと別離するは苦である。 求めて得ざるは苦である。 総じていえばこの人間の存在は構成するものすべては苦である」『雑阿含経』(サンユッタ・ニカーヤ)より 先月は三学の実践と悟りについて書きました。 今月はその続き、なぜお釈迦さま(ブッダ)は悟らねばならなかったか?を書きます。 また、それがはっきりすれば、法然上人の考えや心情があきらかになるのではないか?と思います。 以前にも書きましたが、お釈迦さま(ブッダ)の言葉を集めたものを「お経」と言います。 現存するお経で古いものとしてはパーリ語経典やサンスクリット語経典があり、この一節はパーリ語経典の『サンユッタ・ニカーヤ』(相応部経典)の中の一節です。 パーリ語経典はいわゆる「南伝仏教」と呼ぶスリランカなどに伝わったお経ですが、北伝仏教ではこれに相当するお経に『雑阿含経』があります。 この一節の内容は読んでいただくとわかるように「苦」(サンスクリット語でduhkha・ドゥフカ/duhは悪い・khaは運命や状態の意)についての一節です。 「比丘たちよ」と呼びかけているのはお釈迦さまです。 仏伝にある「初転法輪」の場面になります。 悟りをひらいてから初めての説法の場面です。 かつて一緒に苦行をした5人の比丘(修行者)へ語りかけています。 ここでお釈迦さまは「苦」を語られています。 まず、生老病死の苦について、続いて憎い相手に会う苦、愛するもの(対象は人だけではなく物等も含まれます)との別れの苦、求めても手に入らない苦、それら全てをまとめて人間というものは苦しかない、とお釈迦さまは語られています。 この全ては苦であるという考えは大乗仏教で言う4つの基本的な理念、お釈迦さまの悟られた4つの真理の一つです。 この4つの真理を「四法印」と言います。 これは諸行無常・諸法無我・涅槃寂静という「三法印」に一切皆苦を加えたものです。 以前に書いたように、仏教とは悟りをひらき仏(如来)となるのが基本的な教えになります。 では、なぜ悟りをひらき仏となるのでしょう?その理由は何なのか? それはこの一節にあるように「人間のすべては苦である」、その「苦」から脱出するためには悟り仏となることが必要だからです。 先月に十二縁起について書きました。 十二縁起は苦の原因となる煩悩がなぜ発生するのかを表したものです。 そして苦の原因である煩悩の元となる「無明」を消滅させれば苦は消えることをお釈迦さまは悟られ、そして全ての存在は諸行無常で諸法無我であると悟られ、涅槃(安楽な精神状態)に入られ仏と成り苦しみから逃れられたのです。 注意しなければならないのが、この「苦」とは我々が普段思う「苦」とは少し違うということです。 「苦」の分類法には上記の「四苦八苦」以外に「三苦」というものもあります。 ①苦苦(このましくない対象から受ける苦)②壊苦(このましいものが壊れる苦)③行苦(無常による苦)の3つです。 お釈迦さまが「苦の聖諦」つまりメインターゲットとでも言いましょうか、主目的とされた「苦」は三苦では行苦となります。 行苦とは無常による苦、つまり、物事全てのものが変化し続けることから受ける苦しみとなります。 つまり生老病死や別れや出会いなどです。 四苦八苦を言いかえれば行苦となります。 この苦を消滅させるのが仏教の根本的な目的、となります。 そのために必要となるのが仏なる(成仏)ということなのです。 仏教は仏と成るための教えですが、その目的が何なのか?が大事になるのです。 先月、先々月と仏教の教えと法然上人について書いてきました。 法然上人は比叡山に登り求道、仏教の教えに基づき解脱・成仏して苦しみから逃れることを目指されました。 しかしそれは叶わなかったのです。 私はそれは法然上人にとって非常に辛いことであったと思います。 それは法然上人の前半生から推測するとそうとしか思えないからです。 幼い時に父が殺され、母と別離し、仇討ちも許されず、仏門に入った法然上人としては何としても仏道修行を成し遂げたいという気持ちがあったのではないでしょうか? つまり法然上人は非常に深い苦しみを抱えておられたと思います。 しかし苦しみからの脱却が叶わないのではないか?仏道修行を成就することは不可能なのではないか?という思念もまた深い苦しみとなったことでしょう。 以下次回。
by hechimayakushi
| 2013-09-08 00:43
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